それは大雨の日の出来事でした。
日本から遊びに来ていた親戚をニューヨークのJFK空港まで送った後、母が知人から頼まれている買い物のため、家に帰る途中、マンハッタンに立ち寄りました。
その後、ジョージワシントンブリッジに向けてフリーウェイを走っていたのですが、ちょうど仕事終わりの車で道路はごった返していました。
集中豪雨のため、路面には水たまりがたくさんできています。
混雑していたため、水たまりを避けることができず、そのままある水たまりに入ってしまいました。
それは深い水たまりでした。
すると突然エンジンの回転が不安定になり、その後止まりました。キーを回しても、エンジンはうんともすんとも言いません。

ロードサービスを呼ぼうと、電話機のところまで行こうにも、どしゃ降りと大渋滞のど真ん中で思うように車から降りられません。
しばらくすると、雨でほとんど見えないフロントガラス越しに人のような影が近づいてきます。
よく見ると牽引車でした。
助かったと思い、自宅までお願いしますと伝えたのですが、その牽引車のドライバーは
「このまま家に帰ったところで、明日、また牽引車を呼んで、修理に持っていかないといけなくなるよ。この近くに修理屋があるから、そこで修理して帰ればいい。」
とのことで、その修理屋へ。
修理屋へ到着すると、早速、車はピットに入っていった。

気になるので、私も一緒に入っていったが、
「ここは立ち入り禁止です。店内でお待ちください。」
と追い出された。
その修理屋は、アラブ系の人たちばかりで経営されているようでした。
当時は湾岸戦争があったこともあり、異国の地で、見知らぬアラブ系の人たちに囲まれていることに、少し怖さを感じました。
店内で待っていると、店員から
「キャブレターが故障しています。交換が必要です。」
新品は数百ドル、中古は数十ドルだというのです。
横にいた他の客が、私に対して、なにやらぶつくさ言っています。
どうも遠回しに何かを私に伝えようとしているようでした。注意や警告のような感じでした。
私はこの異様な場から早く離れたくて、交換を頼もうかと一瞬思いましたが、それを見てどうも不安になったので、また改めて別の日に、行きつけの修理店で見てもらおうと考えました。
やはり家まで牽引をお願いしようと思い、それを伝えると、
「自分でやれ!」
と、あからさまに態度が急変。
ピットから私の車がさっさと押し出され、そのまま置かれていましたが、しばらくすると、
「敷地内に車を置くな!前の道路まで出せ!」
私はどしゃ降りの中、車を道路まで手で押し出そうとしましたが、スムースにいかない様子を見て、ピットの人間が、
「早くしろ!」
と、荒っぽく、私の車を押しました。
車は道路までなんとか押し出せましたが、その時、ピットの人間の手が痛んだようで、
「お前のせいで、痛い思いをしたじゃねえか!どうしてくれる!」
と、激怒。
そう言われても、私は知りません。
ただ突っ立っていると、そのまま戻っていきましたが、えらいところに運び込まれたものです。
そして集中豪雨の中、ずぶ濡れになりながら電話ボックスを探し、ロードサービスのトリプルAに連絡。
すぐに来てくれて、やっとの思いで自宅のあるニュージャージーに向かいました。

その牽引車の黒人ドライバーは、
「なんであんなところに行った。あそこはダメだ。悪徳業者だ」
と一言。
路上に突然現れた牽引車もその修理店のもので、路上で立ち往生している車を見つけては、その修理店へ運び、部品を高く売りつけていたのでしょう。そういえば最初の牽引車のドライバーもアラブ系でした。
自宅に着いて、嫌のことを流すがごとくシャワーを浴び、その日はそのまま就寝。
晴れた翌朝、隣に住む大家さんが、
「昨晩、何かあったのかい?車が牽引されて戻ってきたけど」
大家さんは、クライスラー社で車の修理工をやっている方で、車のプロです。
「水たまりに入った途端、エンジンが止まって、その後全く動かなくなって」
と、伝えると、大家さんはエンジンを覗き込みながら、
「もう大丈夫だと思う。エンジンをかけてみて」
そんなはずはないと思い、キーを回してみると、こころよいエンジン音が。

キャブレターは燃料供給装置。
水たまりに浸かったので、キャブレター内部に水が混入し、正常に燃料が爆発できなくなったことが原因でした。
なので、乾けば、エンジンはかかります。それだけのことでした。まさに悪徳業者です。
もう少しで問題のないキャブレターを高い費用で交換させられるところでした。
ただ、最初に高い牽引代は取られましたが。
それ以来、困っている時ほど冷静に判断しなければならないと強く思うようになりました。
向こうでよく耳にする話ですが、海外では人のすきを狙っている人が多いので、本当に注意が必要だと肝に銘じました。
しかし、心のすきは無意識に出てきます。忘れた頃が危険なのです。
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