修理屋での出来事から時間が経った頃、私はいつものようにマンハッタンのCG会社でインターンシップをしておりました。
ある日、社員の方から
「間違ってこちらに届く荷物が別の場所に届いた。取りに行ってくれないか?」
とメモを渡され、私はメモに記載の場所まで取りに行きました。
コマのついた板にロープが付いているだけの台車を渡され、それに荷物の段ボール箱を載せて、運んでいました。
歩道が斜めになっており、すぐに横に流れてしまいます。必死に支えながら、まっすぐに運ぼうとするのですが、うまくいきません。さらにコマが古くなっているので、大きな音がします。

歩道を歩く黒人の人に
「うるさい!」
と、怒鳴られながら、こわごわ運びました。
会社まで、まだ距離が結構ある。
これは大変だなと、と思っている時、急に後ろから声を掛けられました。
「あなた、背中にケチャップがついているわよ」
「?」

振り返ると、スパニッシュ系か南米系のような母親と小学生ぐらいの娘がいました。
「上着を脱いで、これで拭いて」
上着を脱ぐと、背中全面に大量のケチャップがドバッと付着していました。
渡された布切れでは拭き取れず、
その母親は、
「そこのお店の手洗い場で洗ったら」
と、目の前にある飲食店に私を誘いました。
入ると、そのお店の店長が出てきて、
「これはえらくやられたな。そこの流しを使いなさい」
と。
気さくな感じのイタリア系のおじさんでした。
私は、ケチャップをほどほどに洗い流し、上着を手に持って、お店を出ました。
会社に戻り、その日はそれで終わりました。
しかし、数日後、あることが分かったのです。
自宅近くに日本のテレビ番組を録画したビデオをレンタルできるお店があり、そこで借りたビデオを見ていました。

それには “ニューヨークで最近よく起きている日本人が狙われる事件” というのがあり、
ケチャップを背中に塗り付け、親切心を装って近づき、拭いてあげている間に、一緒にいる子供が腰のウエストポーチから財布を盗む、
というものでした。
私は日本人で、ウエストポーチを身につけていたので、犯人から狙いやすい相手だと思われたのかもしれません。
そのままケチャップをかけられましたが、幸い何も盗られていませんでした。何も盗られなかった理由は、失敗したのではないかと思います。
今振り返ると、財布を盗もうとしたものの、位置や姿勢などの問題でうまく手を伸ばせなかったのかもしれません。

本当にいつどこで何が起こるか分かりません。
日本では、電車やバスで寝ている人をよく見かけますが、私がアメリカで生活していた頃は、公共交通機関で眠っている人を見たことがありません。
公共の場で寝ていると、どうぞ物を盗ってくださいと言っているようなものです。
私はアメリカで公共交通機関を利用するとき、日本での生活の癖で眠たくなりますが、アメリカにいる時は気を抜けなかったので、眠気を我慢して起きていました。
そのせいか、電車やバスに乗ると、いつも目が赤く、血走っていました。
防犯になるかもしれません。
海外では、外出中、気を抜けませんので、疲れが大きいです。
でも、気をつけねば。犯罪にあったら、とても嫌な気分になりますので。
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