大学教授の紹介で、ニューヨーク、マンハッタンにあるCG会社でインターンシップをしている時に起きた出来事です。
欧米ではよく見かける光景ですが、会社に愛犬をよく連れてきます。そのCG会社の社長もよく愛犬を会社に連れて来ていました。
ある日、社員の方に「社長の犬を散歩に連れて行ってくれないか」と頼まれ、それまで犬を飼ったことのない私は、ぎこちない動作で、社長の犬を恐る恐る外へ連れ出しました。
会社のビルを出ると、右にはブロードウェイ、左にはハドソン川が流れており、川沿いに公園が広がっております。私は人通りの多い通りは避けて、公園のある左へ向かおうとしました。
しかし、社長の犬は、右へ向かおうとします。

「いや、そっちじゃない。こっち、こっち」と私はリードを引きましたが、社長の犬は言うことを聞かず、右へ向かおうとします。
その後も何度も「こっち、こっち」と言い、リードを引きますが、一向に向きを変えません。
その時、あることを思い出しました。
渡米して2年ぐらいの頃、まだ積極的に英語を話せない時期、教授との面談で、
「あなたは英語を理解している。あとは話そうとするだけだ。
いいことを教えてあげよう。アメリカの犬を飼いなさい。
アメリカの犬は英語しか分からないから、いい練習相手になるよ。」
その教授は普段からよくジョークを飛ばしていたので、私はそのとき冗談だと思っていましたが、試しにと思い、社長の犬に英語で話しかけてみました。
「This way!」
社長の犬は、急に振り返り、公園のほうに歩いていきました。今度は私がリードに引っ張られていました。

あの教授は本当のことを言っていたのだ、ということが分かったのと同時に、“郷に入れば郷に従え” を社長の犬に教えられました。
犬相手にまでなぜ英語で話しかけないといけない、と、私におごりがあったことを思い知らされました。
散歩から会社に戻って、このことをみんなに伝えると、「そうだったの!まあかわいい!」と言い、社長の犬に抱きついていました。
なんか、かわいいのかどうか、私には分かりませんでした。
現在、私にも愛犬がおります。タピオカのようなクリクリおめめのトイプードルですが、日本で生まれ育った犬なので、英語で話しかけても、当然、知らんふりです。

犬ほど人間に近い生き物はいないと思いました。
そしてこの出来事を振り返ると、私は無意識のうちに「自分の考えが正しい」と思い込んでいたのだと思います。
無意識の思い込みだからこそ、完全になくすのは難しいのかもしれません。それでも、自分の考えを一度疑ってみることは大切なのだと、この出来事から学びました。
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